平成27年9月20日　　”朝霧の龍神スカイラインで”

出来たばかりの高野山バイパス道路から、いつの間にか龍神スカイラインを走っていました。前には小型乗用車が2台。1台は見通しの良い直線でパスするも、もう1台はそこそこのペースで走るので無理せずついていきます。

一週間前高野山〜龍神を久しぶりに朝駆け。フルーツラインと高野山バイパス、2つの新設道路の効果は大きく、体感的に龍神スカイラインが近くなりました。そして龍神スカイラインが自分のペースで無理せず走れば、素晴らしい道だという事を再発見。春に走ったヴィーナスラインと比較しても景色はともかく道の面白さは劣らない。 快楽に弱い私は一週間前の楽しさが忘れられず再び同じ道に来てしまいました。

前を走る車が野迫川村役場に向かう林道で折れて、遮るものが無くなりました。テンションを高めてアクセルを開けます。たった一週間だけれど、道の両側に秋の気配を感じながら、適度に中高速コーナー〜アップダウン〜見通しの良い直線道路と続きます。来て良かった！　・・・暫く走るいるうちに、普段以上に道の先が遠くまで見通せて、コーナーでバイクの挙動を感じている自分に気がつきました。勿論私の出すスピードは知れているのですが、すべてをコントロール化に置いている・・・と感じる、自分なりには　”乗れている”状態。　「よっしゃ〜！」 と最高の気分です。

そんな状態が暫く続いた後、ふと小さな違和感を感じました。最初はぽつんと小さかったその感覚が、100%満足で走っている自分の中で小さく警鐘を鳴らし始めます。「何だろう？」　暫くしてその理由に気がつきました。さっきからずっと一人で走っている。小型車が離脱してから1台も車・バイクにすれ違っていないし、追い抜いても追い抜い抜かれてもいない。それともうひとつ。空が明るいのだけれど暗い。この相反する状況の理由は判っていて、登ってくる途中朝霧がところどころ流れているのを確認していました。

関西屈指のワインディング、ベストコンディションの龍神スカイラインを独り占めしているのだから、こんな贅沢な事はありません。実際に”乗れている状態”はずっと続いてコーナーひとつひとつが楽しい。間違い無く楽しくて気持ちが良いのだけれど、言葉にならない気持ちの悪さがまとわりついて離れません。 「一体これは何なんだろう？」　走りながらあるふたつの話が頭に浮かびました。

一つ目は10数年前の営業担当者時代。龍神スカイライン入口に近いお客様の所を訪問した際の事。流れでバイクの話になりました。

「バイクに乗っているんですよ。龍神スカイラインは良いですよね！」　・・・という私に
「良いでしょう。でも気をつけて下さいね。仏様に引っ張られる事がありますから」
「？？」
「バイクの死亡事故が多いんですよ。どうか気をつけて乗って下さいね」

有料道路だったスカイラインが無料化された後、走りに来るバイクと、それに比例してバイクの事故も急増。優しく人当たりの良い、その若いお客様にとってはすぐ身近で起こっている事を高野山独特の感性で忠告してくれたのでしょう。「仏様にひっぱられる」という言葉がひときわ印象的でした。


もうひとつは、数年前に読んだ新聞のコラム。誰か書いたのかは忘れましたが、幼少時代の奇妙な体験が紹介されていました。・・・普段歩く田舎の川沿いの農道を歩いていてふと気がついた。廻りの景色は見えるのだけれど、空が真っ暗で音が無い。「これはヤバイ」と振り返ると、今まで歩いてきた数10m先は境界線のように明るかったが、そこから自分側が真っ暗な状態。必死の思いでそこまで戻ったら何事も無い景色に戻っていた。その場所が何だったのか判らないが、普段過ごす世界には時々、ふとしたきっかけで違う世界との境界が生まれるのではないか？本能的に危機を察知して戻って良かった。・・・というような内容でした。

この二つの話を思い出して、背筋が冷たくなりました。

もしかしたら、今走っているのは現世とは別の龍神スカイラインではないか？だから1台も車もバイクもすれ違う事無く、すべてが理想的な状態で乗れているのではないだろうか？もしかしたら、自分の本当の肉体は現世のコーナーでZX-11と一緒に転がっているのでは無いか？。そういえばさっきからナビもうんともすんとも言わないぞ。・・・なんとも子供じみた空想、なのですが、ふたつの話が重なり妙な感じです。

”道の駅「護摩山スカイタワー」 2km” の看板が観えました。このままスカイタワーの駐車場まで走って誰もいなかったら、さすがにヤバイなあ。そう考えていたら1台、青いスポーツバイクが対向から通り過ぎていきました。　心底「良かった〜」とホッとします。その瞬間　「直線方向1km、道の駅です」　というナビの案内が入りました。そしてそのまま護摩山スカイタワーに到着。普段よりは少ないけれど、それでもバイク4台、車４〜５台は停まっていました。

結局護摩山スカイタワー直前までの20km弱、初秋の龍神スカイラインを独り占めしました。走りに関して言えば100%満足、間違いなく走り好きの仲間に 「羨ましいでしょう！」 と自慢できるシチュエーションです。それと同時に、後半の違和感も生々しく手元に残りました。

自分は何か見えたりするような霊感といった類の能力は一切ないし、オカルトが好きな訳でも無りません。全否定するつもりは無いけれど、理解できない超常現象をあれこれ考えても仕方が無い、と普段は思っています。それでも、今までごく稀に直感的に防衛本能が働く事があって、自分のそうした直感には素直に従ってきました。今朝の霧の龍神スカイラインで感じたものは、久しぶりかつ強烈な、そこに繋がる「違和感」でした。