平成３０年２月２６日　　旅をする木とコペル君

銀座の百貨店屋上。主人公コペル君と叔父さんが、無数の人間が虫のように中央通を蠢いている姿を眺めて世の不思議を感じる場面。話題の小説　「君たちはどう生きるか」　の冒頭です。

「かぶと虫のような車が、京橋方面から出たり入ったり・・・」。そのかぶと虫の巣が自分の仕事場になってもうすぐ丸２年。無機質なオフィスで四六時中パソコンと向き合う生活。窓の外を見る余裕さえ無い時は、コペル君が驚いた日本のオフィス中心街にいる事さえ忘れてしまいます。

それでもたまに早く仕事を切り上げて、巣穴から這い出して東京の街をゴソゴソ・・・。

先日大学ヨット部時代の仲間二人と丸ビルのアジアンレストランで再会しました。私自身は途中退部しているにも係らず、友人として会ってくれる事がありがたい。

学生時代は単位を取るのに四苦八苦していた二人。一人は大手プラント会社で長年海外生活を送り、帰国後転職して超大手外資系メーカーで国内を飛び回っています。もう一人は卒業後就職した会社をリストラされたものの、数度転職後落ち着いた今の会社で技術士を取得、週末は鎌倉材木座で変わらずヨットを楽しんでいる。世界をボーダーレスに活躍するK、専門職を極めて趣味と両立させているS。馬鹿話や昔話もしながらも、彼らの公私の活躍に大いに刺激を受けました。

自分は・・・？　今の職種に異動して6年経ちました。営業からは全くの畑違いの部門、転職に近いほぼ0からの出発。口の悪い悪友からは冗談半分・本気半分に「窓際族」と呼ばれ、当時の営業諸氏からは「こんな所で何をやってるんや？」と言われるスタートでした。

それから、先輩が一人減り、二人減り・・・。部門自体は限りなく限界集落に近づいた反面、残った気心知れた上司・仲間とこれまでのやり方を根底から変えて、仕事の仕組み作りをさせて貰っています。”コスト”という尺度でモノを観て創造する。後輩達に自分のスキルを伝える。まあ本当しんどいけれど面白い。2年前東京に来て、ダイナミックに物事が動く傍にいる事で、よりそれを実感しています。

その反面、優秀でありながら躓いてドロップアウトさせられた先輩を何人も見てきました。今のところ ドロップアウト = クビ　では無いだけマシなのですが、ドラマさながらの人事を実際目の当たりにしてきて率直に思うのは、生き馬の目を抜くこの舞台にいつまでも居れるほど甘くは無いだろう、という事。自分がやりたい仕事を第一線でさせて貰っている今は、仕事に注力する時期だろうと感じています。

プライベートでは、去年キャンプを始めました。道具一式揃えて、ren師匠に誘って頂き上小川、只見でキャンプデビュー。年末は富士山ふもとっぱらと伊豆半島にソロで行きました。今のところ楽しさ3割、うまくいかずのしんどさ7割といったところですが、新しい領域を広げる事ができました。

月に1〜2度の時間は、バイク + αを楽しむ。幸いZX-11は絶好調。春には九州の仲間に会いに都井岬まで行きます。

ミミ坊は中学生になっても、野球と学校生活を楽しんでいます。いつかミミ坊から「自分は学校生活、野球、家族と人生を楽しんでいます。だから父さんも人生を楽しんでください」という手紙を貰いました。それこそが一番大事な事。人生が楽しいと思えたら、普段のしんどい事も乗り越えていける。

反面、願わくば勉強の方も同じ位熱心にやってくれれば良いのですが。勉強嫌いは自分も同じだったので、気持ちは良く判る(苦笑)。立場が変われば言うことも変わる。先日はフェイスタイム(TV電話)で、iphone同士画面を通して激しく言い合いになりました。中学生になって体でかくなっても、可愛い子供に変わりはありません。フェイスタイムを切った後どうするのが一番良いのか、何度も考えました。そんな悩みはありますが、最近はミミオヤジのロードを借りて一緒に朝駆けしたりもしています。

モモは小学生に上がって、小さな体でパワー全開。良く笑い、良く泣き、良く怒る。負けず嫌いな面と、天然な面とがあって、一緒にいて楽しくて面白い。去年の4月には夜桜花見に付き合ってくれました。あと何年こうしてオヤジと一緒に過ごしてくれるだろうか。

年末嫁さんが興味深い番組を撮っていてくれていました。故星野道夫氏の息子翔馬氏が、道夫氏ゆかりのアラスカを訪れるという企画番組です。翔馬氏は英語ペラペラ、臆する事無く訪問先を歩いているのにビックリ。その番組でも取り上げられたのは道夫氏の変わらぬテーマ　「限りある時間を、どう生きるか」　という事。冒頭コペル君に叔父さんが掛ける言葉と共通します。

「限りある時間」は命のリミット”だけ”では無く、その時々にしか無い時間でもある。20年前に読んだ「旅をする木」の真髄です。仕事も趣味も家族も、日々の一瞬一瞬が貴くてあっという間に通り過ぎていく。はっきり言って、時間を持て余しているオジサンの相手や、つまみ食いの人間関係に付き合っている暇は無い。一瞬たりとも後悔しないように自分が一番大事だと思う時間を過ごしたいと思っています。